第2話 病院に着いたら・・・

私は取るものもとりあえず、
大きなカバンを抱えて病院へと急いだ。

ウイィーーーン

病院の自動ドアの音がやけに大きく聞こえる。

受付で母の名を告げると、手術室の前に案内された。

駆けつけるとそこには、私より先に到着した叔父が2人、椅子に座って私を待っていた。
ひとりは母の上の弟。もうひとりは電話でこの報せをくれた叔母の夫(母の下の弟)だった。

上の弟はその時都内に住んでいて電車とタクシーで来たと言った。下の弟は母と一緒にドクターヘリに乗って来てくれたと知った。

『ゆめ、待ってたぞ!!』
「ねえ!お母さんどうしたの!?何で手術室にいるの??」

弟2人は一瞬、顔を見合わせた後、ふぅーと息を吐きだした。

「姉さんね、庭仕事してる時に倒れてたらしくてさ。
 向かいの坊やが見つけて救急車を呼んでくれたんだよ。俺達もまだ詳しいことはわからないけど・・・

田舎で撮ったCTだと、脳に出血があったみたいなんだ。それが・・・結構大きな出血だったらしくて・・・」

【終わった・・・】

私は思った。

母はもうダメなんじゃないか。と。。

そういえば今日は、不思議な箏ばかりが起きたよな。

滅多にしない、友達へのドタキャン。
レコーダーとラジカセのダブル故障。

母の寿命もここまでか。。。

手術室の赤いランプが不気味に光る中、
母と最後に会った時のことをふと考えていた。

それは正月休みで帰省した時のこと。
1月5日・・・倒れるわずか11日前のことだった。

今にして思えば、最後に会った時、母は奇妙なことを言っていた。

いつもは私のメイクを

「濃いね。若い内は化粧なんか要らないのに」

とか、髪を茶色に染めると

「自然のままが一番その人に似合うのに」

なんて言っていたのに、その時は私のことを気味が悪い位に褒めるのだ。


「ゆめは本当に可愛いね」

「何度見てもやっぱり我が子は可愛いねぇ」


と何度も何度も連呼していた。

その時は「急に何言ってんだか!」と笑ったものだが今はとても笑えやしない。

「ああ。。アレは母の最期だったからなのか。
 だから普段言わない言葉を。。」

母の笑顔、言葉、得意の天ぷらとイカのしおから・・

最後に会った時の母の姿が走馬灯の様にグルグルと浮かぶ。

「お母さん。。ホント?ホントにもうダメなの?
 あれが最後だったの?もう2度と会えないの??」

脳裏に焼きつく、弾けるような母の明るい笑顔と、この今の状況があまりにかけ離れすぎていて、まるで異次元の世界に迷い込んだ感覚で呆然とした。

※これは全て、実話です。

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